『訪問診療』とは?
- 2022.02.22
皆さま、こんにちは。院長 辻です。
新型コロナ感染症の拡大が止まりません。重症化率は下がってきているとはいえ、基礎疾患をお持ちの方、高齢者の皆さまにとっては依然注意が必要です。厚労省からこまめに情報発信されておりますので、参考までに。https://www.mhlw.go.jp/content/000788485.pdf
なお、当院でもコロナワクチン3回目接種をお手伝いできることとなりました。ファイザー製ワクチンとなります。すでに電話で予約受付開始しておりますので、ご希望の方はお早目にご相談下さい。
問い合わせ先:03-6915-0303(代表)
午前中は外来もやってますので、お近くの方はふらっと相談にきてもらっても大丈夫です!
さて。今回は、「訪問診療とはなんぞや?」をテーマに書いてみます。
とっても大きなテーマですのでなかなかコンパクトにまとまらず、そして伝えたいことが多すぎて、相も変わらずとーっても長くなってしまいました。お時間のある時にゆっくりと、目を通していただけたら幸いです。
『訪問診療』というワードも、コロナ禍に入り急にメディアなどでも耳にする機会が増えましたね。とはいえ、まだまだ認知度が低いようで、実際にどんなことをしているのかわからないから教えてー、と聞かれることも多いです。
『訪問診療』と聞くと、赤ひげ先生を思い出す方も多いかと思います。山本周五郎の『赤ひげ診療譚』を原作として、1965年に黒澤明監督によって映画化されています。貴賤を問わず、患者さまに寄り添った医療を行う、医者の鏡として描かれています。ちなみに、日本医師会から、地域医療に貢献されている先生方が『赤ひげ大賞』として今も表彰されております。
まず、よく混同して使われている『訪問診療』と『往診』の違いについて説明します。
いずれも、様々な理由で通院が大変な患者さまに対して医師が居住先へ訪問して診療を行うサービスになります。では、なにが違うのでしょう?
赤ひげ先生が主に行っていたのは、患者さまの求めに応じて急遽ご自宅・入居先へ出向く『往診』です。最近では、発熱者・コロナ疑いの患者さんに対してご自宅に急遽伺って診察する様子がTVでも良く報じられておりますね。
それに対して、《毎週月曜日、毎月第2・4週の13時から~》などと前もってスケジュールを決めて、定期的・計画的にご自宅・入居先へ訪問し診療を行うのが『訪問診療』です。
我々『上井草在宅支援診療所』では、通院が難しくなった患者さまに対して、事前に契約を結んだうえで、計画的にお伺いする『訪問診療』を行っております。また、訪問診療契約済みの患者さまに対して24時間365日、必要に応じて『往診』も行っております。
以前は訪問診療というと、『寝たきりの方が受ける緩和治療や最期の看取り』などをイメージされる方が大半だったと思いますが、コロナ禍で緊急往診を行うクリニックが増えたことでメディアに取り上げられることも増え、皆さまの中でも少しずつイメージが変わってきているように感じます。
では具体的に、どのようなケースで訪問診療契約となっているのか、少しだけ例をあげてみます。(いずれも架空の患者情報ですが、実際のケースをもとに部分的に組み合わせ、作成しています。)
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【ケース①】
70代男性。エレベーターのない公団3階におひとり暮らし。介護保険未申請。
基礎疾患に高血圧・糖尿病など生活習慣病があり近所の医院へ定期通院、昔ヘビースモーカーだったことから肺気腫・COPDも患っており、大学病院にも定期通院していた。ここ最近、通院や買い物などのために階段を利用するのが大変になってきたとのことで、近隣のご友人から紹介ありご本人より電話相談。
このケースは、医療難民とならないよう訪問診療介入は大前提となりますが、それ以外にもいろいろと課題が見えますね。整理してみましょう。
まずは独居であること。お手伝いいただけるご家族の方がいらっしゃらないため、生活のために買い物や支払いなど外出する必要ありますが、階段が大きな障害になっていました。また、家の中でも家事炊事などが必要ですが最近はできておらず、ごみ捨てもできていないためお部屋の状況は非常に劣悪になっていました。
病気についての治療組み立ても、もちろんとても大切ですが、この方のように生活自体に支障がでてしまっている場合には、まずはすぐに介護保険申請を行いつつ、急ぎ介護サービスを利用していただきながら生活環境を整えていく必要があります(介護保険や介護サービスについてはまた別のコラムで取り上げてみますのでここでは割愛します)。この方は後日要介護1が出ましたので、専属のケアマネージャーさんがついてくださることになりました。
この方のこれから先の生活を支えていくためには、買い物代行や家事炊事の代行をヘルパーさんに依頼しても良いかもしれません。また、呼吸苦が強くなってきていることから呼吸器リハビリテーションを行うことで、呼吸苦の悪化を防げるかもしれません。もちろん決めるのはご本人ですので、私たちやケアマネージャーさんとご本人で会議を重ね、ご本人の望む形になるべく添うように、必要なサービスを適切にご案内していくこととなりました。
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【ケース②】
80代女性。息子夫婦と二世帯同居。
大腸癌術後再発あり、手術を受けた大学病院へ定期通院中。癌末期であり治療は行っていない。そのほか耳鼻科・眼科・皮膚科など多数の近隣クリニックにも通院中。最近は車椅子生活となっているためご家族が毎回通院同行され、介護タクシーを利用している。最近はだいぶ痩せてしまったため、通院後は疲れ切ってしまう状況。ただ、ご本人としてはお世話になった大学病院の先生に恩義を感じており、これからもできる限り通院したいとご希望。ご家族からどうしたらよいかとケアマネージャーさんへ相談あり、当院へ相談となった。
このケースのポイントは、『ご本人の通院継続意思が強いこと』です。これは決して悪いことではありませんし、当然のお気持ちでしょう。しかしご家族の希望としては、急に具合が悪くなったときに大学病院にすぐ相談するのは避けたいことと、また他科の通院も含めて通院同行が非常に大変であり、すぐにでも訪問診療の緊急契約をしておきたいとのことでした。ご本人の意向とどう折り合いをつければよいのかと、ご家族がとても悩まれておりました。
さて、このような場合、どうしたらよいでしょうか。
癌末期状態であり、ご家族の心配はごもっともです。そして、もちろんご本人の意向も大切にしなければなりません。
私から勧めるとすれば『どっちも大切に』する方法です。
具体的には、大学病院の先生との診察は、体調をみながら可能な時だけ間隔をあけて継続。私たち在宅医はそれとは別に訪問させていただき、日常の中での症状変化や生活面でのサポート・お手伝いをしていく。
そんな、主治医を二人持つようなことも、実は可能なのです。
実際、他の科の処方は当院で一本化し、大学病院への通院はなるべくご負担のない範囲で継続するようにしたことで、ご本人のお気持ちに寄り添いつつ、私たちが緊急時対応を24時間担うことで、ご家族のご不安も払拭することができ、双方ともに納得のいく在宅療養の形を実現できました。
そして、必要な介護サービスをご本人の状態にあわせて都度相談しながらケアマネージャーさんに組み立てていただき、ご家族のきめ細やかなサポートのもと、最期まで穏やかな在宅療養を継続することができました。
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患者さんの数だけ、多種多様な背景があります。他にもたくさんご紹介したいケースがありますが…それこそ本当にきりがなくなってしまうので今回はここまでにします。
どのケースでも関わる皆さんのそれぞれの想いがあり、そこに100点満点の回答はないかもしれません。それでも、なるべく100点に近くなるようにみんなで知恵を絞りあっていくのが在宅医療だと私は思っております。
ですので、私から、『絶対こうしなきゃダメ!』と決めつけることはできる限り避けるよう、心掛けています。
あくまで、方針を決めるのはご本人とご家族。その決定がその方の人生にとってより良い選択となるように、私が持っている知識や経験をフルに活用して助言をしていく姿勢で取り組んでおります。
最後に。
先ほどもちらっと書きましたが。訪問診療・往診と聞くと、皆さまの頭の中では長白衣の先生が大きな黒カバンをもって、看取りに立ち会うドラマのようなシーンを想像される方も多いかもしれません。
『往診=最期の看取り』のイメージはまだまだ強いように感じます。もちろんそのようなケースもありますが、実際には私たちが介入したケースでも長く安定した在宅療養を楽しまれている患者さんがとてもたくさんいらっしゃいます。
ちなみに私はホームページの写真のようなスクラブスタイルで、パソコンと聴診器片手にふらりと訪問させていただいております。病気のことだけでなく、ご本人ご家族と色んな雑談をするなかでちょっとした不安・心配事が見えたら相談にのったり、時にはげらげら大笑いして元気をお裾分けしたり。
なんだか、患者さんたちにはよく、医者っぽくないお医者さんねぇ、と言われたりします。語弊ありますよー…なんて(笑)。でも、「あんたが来ると元気をもらえる、なんか安心するんだよな」なんて言われたりすると、とっても嬉しい気持ちになります。
私たちは在宅医、いわゆるホームドクターであり、あらゆるニーズに可能な限り柔軟に対応し、医療への窓口の役割を果たすことができます。医療面だけで満足せず、介護・生活面にも切り込んでできる限りその人らしい生活を整えていくことに、他事業所の皆さまとタッグを組んで、全力を注いでおります。また、緊急時にはすぐに往診できる体制を整えていますので、今まではご家族判断で救急車を呼ぶしかなかったような状況でも、私たちが間に入って判断をすることができるのが強みです。
訪問診療のことは知っているけれど、あまり乗り気になれなかったり、まだ私には早いわ、とお考えの方、今もまさに悩まれている方もいらっしゃると思います。そんな方には、もし、夜遅い時間や休日に急に具合が悪くなってしまったとき、いつでも電話の先に良く知った医者がいる。呼んだらいつでも来てくれる、救急車を呼ばないでも済むかもしれない…。そんな安心感を、想像していただければと思います。
一度、経験してみたいなと思ったら、遠慮なくご相談下さいね。
いやはや、言葉だけでお伝えしようとするのはなかなか難しいものですね。
だらだらと長―い駄文を、ここまで読んでいただき…大変恐縮です。。
私たち上井草在宅支援診療所は、地域の皆さまの健康と生活を守るための一歯車として努力を続けてまいります。
今後とも、どうぞ宜しくお願い申し上げます!